九州へワインを求めて(後編) | シェフズブログ | パーク ハイアット 東京

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九州へワインを求めて(後編)

※前編はこちら

2日目は、夜明け前に牛深(うしぶか)港に赴き漁港市場を視察。古くから漁業が盛んな熊本県下最大の漁港で東シナ海に面しており、豊かな海洋資源とリアス式海岸を利用した天然の漁場に恵まれているそうです。漁師の方々や仲買さんの威勢のよい会話が飛び交う市場は活気に満ち溢れ、冬の早朝らしい寒さとは無関係。水揚げされたばかりのカマスや、ヒラメ、キダイ(天草ではレンコ鯛と呼ぶそう)は大きな桶に移され、まるでセリにかけられるのを待っているかのようでした。確かな腕を持つ漁師だけが仕留められるという幻の高級魚“クエ”も間近で見ることができました。

お世話になった宿を発ち、狭い山道を登って辿り着いたのは天草ホロホロ鳥飼育場。小屋に近づくにつれて聞こえてくる大きな鳴き声は、扉を開けるとより一層激しくなり、鶏たちは捕られまいと慌てて入口から一番離れた壁側に集中。と同時に羽と土埃が一気に舞い上がり辺りは真っ白に・・・。目を凝らして見てみると通常の鶏よりずいぶんと大きいのです。その名も「天草大王」という地鶏で、昔から天草地方で飼育され、雄の背丈は90cmほど、体重は約7kgにもなる世界でも稀な大型の食用鶏だそう。旅の終盤で、この地鶏を使った料理を試食する機会がありましたが、弾力のある肉質と濃く深い旨みが特徴的でした。

続いて、3つ目のワイナリーを目指し天草から熊本本土へ。熊本城には
目も振らず北上し、阿蘇の山々に囲まれた「熊本ワイン・菊鹿(きくか)ワイナリー」を訪れます。熊本初の本格的体験型ワイナリーとして人気の観光スポットでテイスティングさせていただいた「菊鹿シャルドネ」は、県内北部にある菊鹿町の契約農家で栽培されたシャルドネで造られる毎年人気の1本。すっきりとした味わいの中にふくよかさも楽しめる奥の深いワインでした。

視察ツアーの最後は、シャルキュトリーと乳製品の製造工場「マース」を見学。阿蘇の大地の麓にあたる益城で、ヨーロッパの伝統的製法を重んじ、九州の天草宝牧豚、阿蘇自然豚、熊本あか牛を使用したシャルキュトリー造りを行っています。ハム、ソーセージ、テリーヌは素材の旨さが凝縮されていました。乳製品に関しては「石坂ファーム」で搾られた乳のみを使用することにより、確かなトレーサビリティシステムを実現するこだわりも。チーズは種類ごとに5タイプの熟成庫を使い分け、丁寧に仕上げています。どの種類も九州のテロワールを感じる味わいで、「今回出合ったワインがここにあったらなぁ」と最高のマリアージュを妄想してしまうほどでした。

今回の九州巡りでは、ワイナリーの方々から、葡萄造りとワインへの愛情、醸造へのこだわりを直接伺い、九州ワインの素晴らしさと奥深さを体感できました。また、漁港やホロホロ鳥飼育場、シャルキュトリー・乳製品工場の皆さんも同じく誇りを持ちながら九州の産物と真摯に向き合い、より良いものを創造しようとする姿に感銘を受けました。そして何よりも皆さんの温かな人柄に触れられたことが私にとって大きな収穫です。

九州の皆さん、お忙しい中、視察にご対応いただき本当にありがとうございました!ゲストの皆様、「梢で体験できる九州のマリアージュにどうぞご期待くださいね。

※九州ワインと日本料理が融合する「日本ワインと春の滋味 ~ 九州産スペシャルセレクション」(3月18日~4月9日)の詳細はこちらをご参照ください。