シェフズ ジャーニー <徳島> | シェフズブログ | パーク ハイアット 東京

CHEF’s BLOG

Manabu Ichizuka

シェフズ ジャーニー <徳島>

こんにちは。
パーク ハイアット 東京 副総料理長を務める市塚学と申します。
私どものホテルでは、生産者の方々とのコミュニケーションを大切にしながら食材を選ぶことにも重きを置き、シェフ自ら産地に赴くことも珍しくありません。このたびは私自身が8月初旬に、良質な山海の幸が揃うという徳島県小松島市へ伺う機会を得ました。

羽田から1時間ほどのフライトで到着した徳島空港を出ると、真夏の眩い太陽と潮の香りにつつまれます。空港から1時間ほど車で南下し、今回の目的地である小松島市へ。
まずは県内でもいちはやく無農薬に取り組んだ「上王子特選米」農家の北野さんを訪ねます。四国山地の霊峰である剣山からの伏流水が流れ、水車が回るのどかな風景のなか、無農薬・減農薬にこだわり、タニシがいる田圃で作られたお米は、環境保全型農業コンクールで優秀賞を受賞したことも。地元のお母さんたちが用意してくれたおにぎりも美味しくいただきました。

次は港へ向かい、和田島漁業協同組合でシラスの乾燥工程を見学。栄養分に富む海で育ったシラスは通常よりも大きく、深みのある味わいが印象的です。

休む間もなく、最先端の設備で次世代型の農業経営をしているという樫山農園へ。アメリカでの研修を経て小松島に戻り、代表取締役を務める樫山直樹さんは、お父様から受け継ぐこだわりの農業を貫きつつも土壌分析やコンピュータ制御の効率性を取り入れ、高糖度トマトをはじめとする最高級の野菜を生産しています。収穫後の植物残渣を肥料にする有効活用にトライしたり、休耕地を活用した地域活性化のみならず、ヴェトナムでも農園を経営し、外国人技能実習生が日本で習得したスキルを活かして帰国後に働く場所を提供する仕組みづくりなど、農園に携わる人たちの生き方まで考慮した経営ポリシーに感銘を受けました。

手間と時間をかけて肉厚の上質なしいたけを栽培する浜田農園、美味しいプリンを作りたいという思いで平飼いの鶏による卵を手がけ、さらにはブルーベリーやキウイなどの自然栽培にも取り組んでいるみその農園にもお邪魔しました。この日は生産者の方々をはじめ、地元経済を支える経営者の方なども揃い、情報交換をかねた懇親会となりました。

翌朝は、港町の風情を感じながら小松島漁業協同組合へ。沿岸は徳島県を西から東に流れる吉野川が運ぶ栄養価の高い土砂と水で、良質な鱧が獲れるそうです。夏のイメージが強い鱧ですが、地元では昔から秋の鱧も脂がのって美味しいと重んじられていたそうです。
ここでも後継者不足の話が聞かれ、日本ならではの農業、漁業を支えていく取り組みを続ける必要性を実感しました。

その後、株式会社とり信さんで鶏肉や鱧の加工工程を見学し、濱醤油醸造所へ向かいました。
ご夫婦で力をあわせ、大きな杉樽のなかで丹精込めて造られる醤油、味噌を見せていただき、きめ細やかに要望に応じて種類を分けて醸造するというお話も。さらに現代のライフスタイルにあわせて展開されている多彩な醤油も試食。酒蔵で修業した経験を持つご主人による独特の麹で、どれも味わい深い仕上がりです。また、片隅に積まれた大豆の残りは、地元の有機農業の肥料として役立てられると聞き、ここでも地域で力をあわせて良いものを作ろうという姿勢が垣間見えました。

慌しいスケジュールではありましたが、直接生産者の方々の情熱に触れ、あらためて山と海に囲まれた恵まれた自然と人々の思いが織りなす食の力を体感し、東京への帰途につきました。徳島を訪れたのはこれで3回目でしたが、また新たな日本の魅力を発見する旅となりました。